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SEJだより 第62号

ドナルド・トランプ大統領令14300号の検討状況―放射線線量限度の見直しを中心として-

掲載日:2026.07.20

はじめに

 2025年5月23日にドナルド・トランプ大統領が署名した米国大統領令14300号(Executive Order 14300: Nuclear Regulatory Commissionの改革命令)に対し、米国原子力規制委員会(NRC)は現在、「規則・手引きの全面的な見直し(Wholesale Revision of Regulations)」を掲げ、法的な期限である18ヶ月以内(2026年11月まで)の完了に向けて集中的な規則制定(ルールメイキング)プロセスを進めている.

 放射線防護関係については6月末までには原案を作成することとしていたが、7月に入り7 月1日にNRCとしての原案を公開している。本報では改革の中盤にあたり、改革に向けての基本的な流れ、今回発表された原案の考え方とポイント、今後の課題についてまとめてみたい。

  1. 放射線線量限度および防護枠組みの見直し

 米国原子力規制委員会(NRC)による放射線線量限度および防護枠組みの見直しは、大統領令14300号に基づく一連の改革の中で「最も抜本的かつ議論を呼んでいる重要テーマ」の一つである。最大の特徴は、半世紀にわたり世界の放射線防護の基本とされてきた「ALARA原則(合理的に達成可能な限り低く抑える)」の撤廃に踏み込んでいる点である。

 現在の検討状況と今後の見通しは以下の通りである。

  1. 現在の検討状況と主な提案内容

 NRCは、放射線防護基準を定める 10 CFR Part 20(および関連するParts 19, 34, 35, 50, 61等)の大規模な改正案(通称:Reforming and Modernizing the NRC’s Radiation Protection Framework)を策定し7月1日にはNRCとしての原案を公開している。 主なポイントは以下である。

  • ALARA原則の義務付け撤廃
    これまで事業者は「基準値以下であっても、可能な限り被ばく線量を下げる取り組み(ALARA)」を義務付けられていました。新たな提案では、「明確に定められた線量限度を下回っている限り、義務としてのALARAは免除する」案となっている。また、線量管理に関する段階的アプローチ(Graded Approach)に移行する案となっている。
  • 直線非しきい値(LNT)モデルの見直し
    「放射線はどんなに微量でも量に比例してがんのリスクを高める」というLNTモデルの過度な適用を問題視し、「自然放射線レベル以下の微量な放射線防護に過大なコストをかけるのは不合理」として、しきい値(これ以下ならリスクの考慮が不要)の概念を取り入れ限度以下のLNT採用を取りやめる案としている。
  • 一般公衆の線量限の扱い
    現行の 100 mrem/年(1 mSv/年)から 500 mrem/年(5 mSv/年)への引き上げが提案されてきたが、線量限度は引き下げられていない。しかしながら限度の適用方法の変更など、次世代小型原子炉(マイクロリアクター)などの敷地境界や周辺監視区域の設計・運用が大幅に合理化されると考えられる。
  • 職業被ばく限度の維持と将来的な緩和
    放射線業務従事者の線量限度は当面 5,000 mrem/年(50 mSv/年)に据え置かれる。INLなどからは科学的データが集まり次第、将来的には 10,000 mrem/年(100 mSv/年)への緩和に向けたロードマップも視野に入れているとされてきたが引き続き議論されると思われる。

2) リスク管理―リスク情報を活用したアプローチ

 今回提案された原案のポイントは以上だがその根底にあるNRCの放射線の健康リスクをどのように合理的に管理するかという考え方を補足したい。リスク情報を活用した規制アプローチ(Risk-Informed Approach)としての具体な提案が「線量管理への段階的アプローチ(graded approach to dose management)」となっているわけである。これが「NRCの全体的なリスク情報を活用した規制アプローチ(risk-informed approach to regulation)に沿ったものである」と明記されている。これは、リスクの大きさに応じて規制の厳格さを調整するという考え方である。リスク管理のツールとしての「線量限度」は、「長期的な被ばくのリスクを許容可能なレベルに管理するための規制上のツール(regulatory tools to manage the long-term risks of exposure)であると位置付けである。NRCは、これまでのALARA原則に対しては、極低線量におけるALARA原則の過剰な適用によって生じていた「すべてのリスクを排除しようとする傾向(ゼロリスクの追求)」を問題視し、「すべてのリスクを排除することと、リスクが存在しても極めて小さい(あるいはゼロの可能性を含む誤差の範囲内である)と認識し、それ以上のリスク低減は合理的ではないと判断することの違い」を強調している。すなわち、被ばくによるリスクの低減と、それに伴う経済的コストや社会への影響を天秤にかけ、費用便益分析によって合理的なリスク管理(最適化)を行うことを基本としている。

  • 今後の最終決定までのタイムライン・見通し

 エネルギー省(DOE)が先行して2026年1月に独自の内部規則からALARA原則を排除したのに続き、NRCも迅速なスケジュールで動いている。

  • 2026年7月: 連邦広報に公開後パブリックコメント手続き予定
    公式な提案規則(Proposed Rule)が連邦手続広報に掲載され、一般や業界、環境団体からの意見公募(パブリックコメント)が実施される。
  • 2026年11月23日:最終ルール(Final Rule)の発行期限
    大統領令14300号によって定められた絶対的な期限であり、NRCはこの日までにパブリックコメントの処理を終え、最終決定(Final Rule)を発行・確定させる見通しである。
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  • 各界の反応と見通しへの影響

 原子力業界は、 「過剰な防護コストが削減され、新技術の導入や既設炉の維持が容易になる」として全面的に支持している。科学・環境団体・州政府は、 長年定着してきた安全基準を急激に緩めることに対し、「公衆の健康をリスクにさらす」との強い反発や訴訟リスクも指摘されている。
しかし、ホワイトハウスおよび議会(ADVANCE Act)からの強い後押しがあるため、スケジュール通り2026年11月までに規制緩和が最終決定される可能性が極めて高い状況である。

おわりに

 米国原子力規制委員会(NRC)による放射線線量限度および防護枠組みの見直しについて記載した。アメリカのエネルギー安全保障を確立するために、原子力に関するアメリカのリーダーシップを復活させるという方針は明確で、2026年11月までに最終確定を目指して進んでいる。改定が正式決定されれば、アメリカ国内の影響はもとより、世界的な影響も相当あるであろうと予想される。NRCは今回の案はICRP,IAEAの基準と矛盾しないとしている。放射線線量限度および防護枠組みは、アメリカ国内においてもその変更に消極的な意見も多々あり最終確定までは目が離せない。また、確定後についても、ICRP勧告との関係、IAEAの基準類との整合性など、NRCは整合が取れていると述べているが、議論を進めていくことが必要になる。今回の案は科学的合理性を踏まえたものと感じられ、わが国でも活発な議論が期待される。(金盛正至 記)