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SEJだより 第63号

原子力発電所新増設を進めるため―開発体制に国の役割と責任の明確化が必要―

掲載日:2026.09.03

国の戦略投資方針

 高市政権は日本経済を復活し投資拡大による強い経済を実現するため、戦略投資分野(17分野)を定め、責任ある積極財政の具体化のもとに2040年までに官民合わせて370兆円の投資を呼び込む構想を発表した。戦略投資対象分野として62の製品、技術をとりあげており、エネルギ-安全保障の分野では次世代型革新炉が含まれている。日本の原子力開発の現実は閉塞感もあり足踏み状態にあるなかでこのような国の方針が明示されたことは高く評価できる。

コペルニクス的革新体制の構築

 しかしながら北海道電力の泊3号機の建設以来18年間新増設建設がなく空白期間が長かったことから経験に基づく技術力や人材力が真に維持確保されているか詳細な実態評価が必要と考える。今後の原子力発電開発について、今年7月の原子力関係閣僚会議において2050年代までに原子力発電11基から14基の建て替えが必要との見通しが承認され政府の方針として正式決定された。政府が具体的に開発必要基数について明示したことは初めてのことでありそれなりに評価できる。しかしながら、見通しを具体化するためには国家としての連続かつ継続的な開発計画を国が策定することが必要となる。即ち、およそいつまでに何基の建設をどこの開発地点でやるのか、開発主体は誰なのか(電気事業者単体で又は共同開発、建設専門の特殊会社の設立など)を明らかにした国家原子力発電開発計画である。現下の原子力をとりまく諸問題は原子力発電新増設、核燃料サイクル確立、高レベル廃棄物処理処分など実に幅広く、またそれぞれの課題に対し具体的な取組みを着実に実施していくことが早急に求められている。しかし、原子力発電の新増設について国の活動はエネルギ-基本計画で開発必要基数を示すことにとどまっており、開発は民間事業任せとしている現実がある。このような事態を打開して具体的に原子力発電の開発を着実に進めるには、国と民間事業者がそれぞれの役割を分担しつつ真に一体となる取組みが必要である。このため、開発が閉塞状態にある現状の因果関係の分析をまず行ったうえで、コペルニクス的革新体制を構築しない限り現状の停滞状況がそのまま推移していくことになるとの危機感を関係者は共有すべきである。

国と民間事業者の役割分担

 無資源国日本にとって原子力エネルギ-は国の経済安全保障を確保する上で必須の電源であるが、初期投資が巨大かつ開発期間が長期化しており規制、政治、地元合意、開発必要資金の調達など電力自由化環境下では事業者自身で制御できない多大のリスクを抱えている。従って、原子力発電の開発はエネルギ-開発としての意義づけに加え、国の経済安全保障を確保するために国民が必要とする社会公共インフラの構築と位置付けることにより、これまでの国と事業者の役割と責任分担を根本的に見直すことができる。すなわち、開発計画策定、地点選定、地元交渉、地域政策の策定など建設に至るまでのプロセスは国、事業者、自治体が一体となって協議を重ねつつ開発の実現を図る必要があるが、協議を取りまとめて実現を図る責任主体を国の役割とし、設計、建設、運転管理のプロセスは民間事業者の役割とすることである。

 これらの考え方を実現するためには国の責任とは何か、具体的に責任を果たす手段などを明らかにするとともに、それぞれの開発主体の役割と責任を明確化するための具体的手続きや必要対応を定める必要がある。また、電力自由化環境下において原子力は通常の市場競争下で十分な投資がなされる保証はないので、原子力発電を一定量確保する戦略電源として位置づけ、長期的な料金や投資費用回収を保証する別枠制度をもうける必要があるとともに、開発投資に対する国の負担のありかたについて考え方を提起するため、原子力発電開発促進特別法(仮称)を制定するとともに関係法の改定も必要となるだろう。

 原子力発電の開発に対し国が前面に立った制度とすることは、国の責任と決断を明確化することになり、原子力発電の開発、建設を継続的かつ持続的に実現することが目標達成となるので開発期間のいたずらな長期化を避けられる可能性が高まり事業者、機器メーカなどが先の見通しができることになる。

プラント開発の集約化とリスク分担

 また、炉型や炉出力、主要機器、設計などの標準化を図るとともに商用展開する炉型系列を2~3程度に集約化した開発計画とすることで大幅なコスト低減を図る必要がある。こうした対応は革新炉など技術の開発や維持、人材の維持、確保、開発に携わるサプライチェーンの維持にも貢献することにつながる。

 さらに、開発交渉過程や建設期間において不可抗力的な事態に遭遇する場合には建設費の高騰や工期遅延などのリスクが生じることとなり、官民合同のリスク分担の在り方をあらかじめ決めておくことが必須であり、このことが事業者側の建設投資決断を促すことにつながる。リスク分担においてはリスクを生じた原因に応じて開発主体別の負担額の考え方を明らかにしていくことが求められる。国の負担義務のありかたの実例については英国が先行事例として参考となるので詳しく分析してみることが必要だろう。

なお、国が推進主体となることにより同じ国の安全規制の判断に影響を及ぼすようなことが生じないように、国家原子力発電開発計画において安全規制上の許認可をなんら予断するものでないことを明記しておくことが一案である。

                (佐々木 宜彦 記)