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SEJだより 第61号

核融合発電炉の課題を踏まえた日本の現実的エネルギー戦略- 何十年先の核融合より現下の原発建設を -

掲載日:2026.07.20

1. はじめに、

 現在の日本の電力需要量は10,000億kWh超程度であるが、今後数十年間を見通すとEVの大幅な普及、AIの爆発的な進展によるデータセンター、更には今後の食料問題解決のための農産物工場、等により電力需要が大幅に伸びることが予想され、21世紀末には15,000億kWh程度に達すると見積もられている(図-1参照)。本図中に示す21世紀末の電源構成の予想案は著者らの検討による。今後、現状の20~30%増と予測される電力供給を満たすためには大幅な原子力発電所の増設が不可欠となる。21世紀中に図-1に示すような電源構成の実現を目指さないと日本の存続は危ういものになると想定される。

 一方で現状、日本の地政学的リスクは大幅に高まっており、これまでのように何十年先を見据えたエネルギー政策を踏襲するほどの余裕がなくなった。これまで日本はエネルギーの9割程度を海外からの石油、LNG等の化石燃料に依存しており、一旦、世界のどこかで政情不安が起こると、化石燃料の供給体制が常に不安定な状況に陥ることが繰り替えされてきた。一方で太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、効率が12~25%程度と極端に低く、かつ夜間には発電は著しく低下するなど、社会が電力を必要としているタイミングに電力がない状態が発生しうる。以上から、化石燃料輸入に対しての日本の地政学的リスクの拡大、また再エネの低効率・不安定発電、更には再エネ発電設備の供給元が中国に集中しており、安全保障上も芳しくないなどにより、これらの再エネの大幅な伸長は慎重にならざるを得ない。

 以上から日本においてこれから真に力を込めて開発しなければならないのは、原子力と核融合である。しかし核融合は以下に記すように物理的及び工学的な問題が山積しており、一朝一夕に実現することは難しく、核融合発電の商用化までに少なくとも半世紀近くの歳月を要すると見込まれる。したがって、これから数十年、すなわち今世紀半ばまでの地政学的に最も厳しい過渡期において、日本が現実的に頼ることができる唯一の準国産エネルギー源は、既存の「原子力(核分裂)」以外に存在しない。このためここ半世紀ほどの間に頼りになるのは原子力だけである。

 ここでは以下に核融合発電の商用化が如何に大変なものであるかを検証してみる。核融合炉の実現には技術的・経済的・制度的な多くの課題があり、更には核融合プラズマそれ自体にも数多くの未解決課題がある。

2.  核融合発電を実現する上での物理上及び工学上の課題

 核融合商用発電炉の実現に向けて、プラズマ物理の領域で克服すべき課題は多岐に亘っており、主な課題を図-2に示す。これらは「定常的に、かつ安全にエネルギーを取り出し続ける」という商用発電炉では必須のものである。これらの課題は現在、JT-60SAやITER、或はこれから建設予定の核融合原型炉等での実験を通して解決を目指しているものである。

 次に工学的課題として、核融合発電炉が成立するためには、核融合反応で生成される14MeV中性子に長期間晒される問題、核融合炉をより経済的な炉にするためによりコンパクトにする必要性、等があるが、これらの大きな課題を解決する必要がある。図-3に主な工学上の課題を示す。

 以上から、核融合炉成立の要件が単にプラズマ性能だけではなく、14MeV中性子照射下での構造材料の健全性、ダイバータ寿命および交換頻度、等々に依存することを示している。

3. 今後、日本が進むべき道筋

3.1 核融合に対してとるべき開発戦略

 多くの核融合ベンチャーが「2030年代初頭までに商業発電を開始する」といった、非常に意欲的かつ挑戦的なロードマップを発表している。民間資金を呼び込むためのビジネス上の戦略としては理解できるが、科学的・工学的な観点から客観視すると、これらのスケジュールは過度に「楽観的」である。上記のように核融合炉の実現に必要なプラズマ物理的、工学的な課題は、どれも長時間を要するステップバイステップの実証実験が必要である。これらをスキップして商業炉へ移行することは、安全規制の観点からも、プラントの技術的信頼性の観点からも不可能である。歴史的な大型技術開発の先例を見ても、実験炉から原型炉、そして商用炉へと至るプロセスには、各段階で最低でも15~20年の歳月を要しており、現在の進捗から逆算すれば、系統電源として機能する商用核融合炉の誕生は、今世紀の後半(2070年代以降)と見なすのが合理的であろう。

3.2 日本が取るべき現実的エネルギー戦略

 現在の日本を取り巻く状況;つまり地政学的リスクが極限まで高まり、化石燃料の供給がいつ途絶してもおかしくない現在の日本においては、「未来の不確実な技術(核融合)」や「効率が低く特定国に依存する技術(再生可能エネルギー)」に国の命運を預けることは、国家の自殺行為に等しい。これから半世紀の間、すなわち核融合が真の実用化を迎えるまでの地政学的に極めて危険な時期において、日本のエネルギー安全保障を維持し、日本経済を維持するためには、既に既存技術となっており、国内での政策決定可能な「原子力」以外に選択肢はないであろう。

 したがって、日本が真に総力を挙げて取り組むべき今後の戦略は、以下の2点である。

① 既存原発の活用と新規革新炉の建設: 安全基準を満たした既設軽水炉の再稼働を迅速に進め、運転期間を60年、あるいはそれ以上に安全に延長するための技術的評価と制度的整備を急ぐ。次世代革新炉へのリプレースの加速: 国家プロジェクトとして膨大な予算を投入することで、安全性を飛躍的に高めた革新軽水炉や高速増殖炉、更には工期を短縮し初期投資リスクを抑えられる「小型モジュール炉(SMR)」、また水素製造や熱利用も可能な「高温ガス炉」の建設を強力に推進する。

② 核融合への長期的投資が不可欠: 核融合を「現在の救世主」とする楽観論を排し、将来の最有力の選択肢として推進するため、基礎研究、材料開発、そして国際協力(ITER計画など)への巨額の投資は継続する必要がある。しかし長期に亘る核融合への巨額な投資を継続するには、国家の経済基盤が盤石であることが必須で、盤石な経済を成立させるためには原子力発電が不可欠である。

7. まとめ

 非常に危うい日本のエネルギー状況について考えてみた。暴風雨のような地政学的荒波の中で日本が生き残るためには、理想論や楽観論を徹底的に排除し、現実的に利用可能なエネルギー密度の高い手段、すなわち原子力を最大限に利用する現実的なエネルギー戦略の確立が急務であり、この前提条件の上で核融合開発への投資が必要である。

(栗山正明記)