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SEJだより 第60号

高速炉開発の意義と国の覚悟

掲載日:2026.07.11

このSEJだよりは、2026年6月に行った赤澤経済産業大臣への提言を記したものである。

【要旨】

 資源小国の我が国にあって核燃料サイクルの確立はエネルギー安全保障の要諦である。現在は六ケ所燃料工場の軽水炉燃料サイクルまでしか視野に入っていないが、軽水炉だけではウランの利用効率が低く、やがてはウラン資源が枯渇する。ウランをプルトニウム(Pu)に変換する高速炉燃料サイクルが完成して初めて原子力エネルギーとして価値を発揮する。

 高速炉では高濃度で大量のPuを扱うため、Puに対する厳しい国際的な目がある以上、国が覚悟を持って実用化見通しが確認できるまでは投資を継続すべきである。もんじゅが廃炉となった今、このままでは高速炉技術は潰えてしまう。経済性も然ることながら国が核燃料サイクルを結実させるという強い意志を持続しない限り高速炉燃料サイクルは実用化できない。

  1. 資源小国

 エネルギーは水や食料と並び国の安定と安全、国民生活、経済を支える基盤として、長期持続的な供給、すなわちエネルギー安全保障は国家の重要課題である。

 日本のエネルギー自給率は約16%(2024年)でカロリーベースの食料自給率約38%(2023年)よりさらに低く、エネルギー資源である石油や石炭、天然ガスはほとんどを海外からの輸入に頼っている。これはOECD加盟国38カ国の中でもルクセンブルグについで2番目に低い水準である。生き残るために最低限必要なものについて手段を尽くして守ることが安全保障ということで、エネルギーの自立は国の死活に関わる最重要政策である。先の大戦ではABCD包囲網(アメリカ合衆国(America)、イギリス(Britain)、中華民国(China)、オランダ(Dutch)の貿易封鎖)による日本へのエネルギーの途絶が開戦の原因の一つとなった。このようにエネルギー争奪が古今の戦争の原因になる例は枚挙に暇がない。

  • 核燃料サイクルというエネルギー政策

 エネルギー政策は国家100年の計を以てなすべき国家の根幹をなすものであり、近視眼的視点で決める問題でない。長期的視野を持って固い信念のもとで進めるべきことである。核燃料サイクルの時間軸は50年、100年と長く、原子力大国である米国、フランス、ロシア、中国では米国を除いてみな高速炉と再処理による核燃料サイクル政策をとっている。米国はシェールガス特需でお休みしているが、何時でも戻れる力を備えている。さらに加えてインドは本年4月6日に「もんじゅ」と同じ高速原型炉PFBR(50万kWe)の初臨界を達成した。これからインドも核燃料サイクル政策を以て原子力大国に仲間入りする。

 現在、我が国は軽水炉燃料の再処理によるプルサーマル計画でウランの利用効率を高めようとしているが、それでもなおプルサーマルによるウラン利用効率は高速炉と比べると数10分の1程度であり、核燃料サイクルの目指すべきは高速炉燃料サイクルである。

註 ウラン利用効率 軽水炉(直接処分)0.5% プルサーマル0.75% 高速炉 60%以上

図1 ウラン利用効率の比較

 現在は六ケ所再処理工場の軽水炉燃料サイクルまでしか視野に入っていないが、本来は高速炉燃料サイクルが完成して初めて原子力エネルギーとして価値を発揮する。

図2 本来の核燃料サイクルの姿

海水ウランの幻想

 海水中にはウランが溶存しその総量は約45億トンと膨大な量に及ぶ。但し、世界のウラン市場で取引されているウランは、1000〜200000ppm(0.1~20%)濃度のウラン鉱床から採掘されたものであり、これに対して海水中のウラン含有率は、0.003ppmと6桁以上小さい。無尽蔵な海水からウランを回収することは夢があるように聞こえるが、桁違いに希薄な海水中ウランを回収することは、膨大なエネルギーとコストが必要であり技術的・経済的に見通せない。エネルギー源となる下記3条件のうちの「集中してあること」が決定的に欠落している。

・大量にあること

・集中してあること

・エネルギー密度が高いこと

  • 世界の高速炉の開発状況

 安全・信頼性,経済性,持続可能性,核拡散抵抗性などに優れた次世代の原子炉システム(第4世代原子炉)として,ナトリウム冷却高速炉(SFR),鉛冷却高速炉,ガス冷却高速炉,溶融塩炉,超臨界圧水冷却炉,超高温ガス炉の6つの革新的原子炉システムが選定され、国際的な研究開発が進められている。このうちSFRは各国とも本命と考えてその開発にしのぎを削っている。図3に各国のSFRの開発状況を示す。

 1951年12月20日に世界初の原子力発電に成功したのは、実は軽水炉ではなく米国の高速実験炉EBR-1(熱/電気出力1000kWt/200kWe)である。その後、米国は数々の実験炉を建設し、原型炉CRBRの建設も開始したが1977年 核不拡散政策の強化を理由にこの建設を中止した。21世紀に入ってから米国は次世代原子炉システム(第4世代原子炉)(Gen-IV)概念の検討のために、「第4世代原子力システム国際フォーラム」(GIF)を設立し、SFR等のシステム協定に署名して活動している。特に最近はビル・ゲイツが率いるテラパワー社の「Natrium(34.5万kWe)」が第4世代SFR実用炉として金属燃料を採用し、溶融塩蓄熱システムを備えた高速炉として注目を集めている。

 フランスはシャルル・ド・ゴールが大統領の時代に核武装を宣言するとともにアルジェリアの独立を承認して石油からの脱却を図り、原子力エネルギー利用に大きく舵を切った。以後軽水炉開発、高速炉開発に邁進し原子力大国になったことは周知のとおりである。高速炉については実験炉Rapsodie、原型炉Phenix、実証炉Super Phenix(全てMOX燃料)の豊富な開発経験を保有している。実証炉Super Phenix(120万kWe)は世界で最初の大型SFRであったが、燃料漏れや冷却システムの故障があって当時緑の党との政治的駆け引きで1998年に廃炉になってしまった。その後、実証炉ASTRID(60万kWe)の計画があったが現在は凍結し、日仏高速炉協定を結んで今世紀後半の実現に向けて高速炉燃料サイクルの開発を復活させた。

 ロシアは1959年からSFRとして実験炉(BR-5/10、BOR-60)、原型炉(BN-350、BN-600)、そして2016年には実証炉(BN-800)の運転を開始し2035年には実用炉(BN-1200)の運転を開始する予定で着実に実績を積み上げている。燃料も原型炉まではUO2燃料であったが実証炉ではUO2燃料からMOX燃料に切り替え、実用炉初号機ではMOX燃料を使用するものの後続機では高増殖比を目指し窒化物燃料の採用を計画しているようである。BN-600ではナトリウム漏れを21回、ナトリウム―水反応を12回も経験しているがそれを乗り越えて76%の高い年平均設備利用率で運転している。国柄の違いとはいえ我が国の対応とは大きく異なり、多くの工学的経験を積み重ねている。

 中国は21世紀に入って急速に高速炉開発を立ち上げた。2010年に実験炉(CEFR 2.5万kWe)の初臨界を達成し、2017年と2020年に原型炉を経ずにいきなり実証炉(CFR 60万kWe x 2基)の建設を開始した。2030年代には実用炉(CFR 100/120万kWe) 2基の運転開始を目指している。中国も実験炉UO2燃料、実証炉はMOX燃料であるが実用炉以降金属燃料を採用する計画である。中国の場合、発電も然ることながらPu生産も重視し核燃料サイクルとして増殖比の高い金属燃料を選択しているのではないかと思料する。

インドの高速炉の開発は早く、フランスの実験炉Rapsodieの技術を導入して1985年に高速実験炉(FBTR 1.36万kWe)の運転を開始した*。原型炉は上記のとおり本年4月に高速原型炉PFBR(50万kWe)の初臨界を達成した。インドは国内に豊富なトリウム資源(世界第2位の埋蔵量)を有し、将来、有効活用する「ウラン-トリウムサイクル」をベースとしたインド独自の3段階の原子力開発計画を目指している。PFBRやこれに続く高速実用炉FBR1&2(50万kWe)は第2段階のPu生産を目的としたものでMOX燃料を使用するが、ゆくゆくは金属燃料でPu増殖比を高めて、電力需要の伸びが緩やかになったら第3段階のウラン-トリウムサイクルに繋ごうとしている。

  • 1974年にインドは核実験を行ったためフランスの協力が途絶し独自に高Pu富化度の炭化物燃料を開発した。

註:一部、露の鉛冷却、加の熔融塩の高速炉を含む

図3 各国のSFRの開発状況(出典 新版 核燃料サイクル 次世代エネルギーを担う(ERC出版 2025年11月27日))

 高速炉は冷却材に熱伝導に優れ、沸点の高い金属ナトリウムを使用するので軽水炉よりも約200℃設計温度が高いが一方で低圧にできる。このため高速炉の主要機器は薄肉構造で耐熱設計が支配因子になる一方で耐震設計が厳しい制約要因となって耐熱設計と耐震設計の相克から免震構造を採用する計画である。しかしながらそれでもなおデザインウィンドウ(設計成立の領域)は狭い。(軽水炉の主要機器は耐圧設計が支配因子となるので耐震設計があまり顕在化しない)また、一次系放射化ナトリウムとの水反応を避けるため二次ナトリウム系を設けるのでPWRと比べても冷却システムが多重化される。このため高速炉は基本的に軽水炉よりもコスト高になるが、Puサイクル全体で評価する必要があろう。そこで重要となるのが核燃料の形態である。軽水炉では六ケ所再処理工場によるMOXサイクルシステムとしていたが、MOX燃料、金属燃料、窒化物燃料等それぞれに長所と短所があり、高速炉では早期に核燃料の形態を決める必要あろう。(上述の海外の例を見ると目的により異なるが実用炉の燃料として金属燃料、窒化物燃料を指向している)

  • 国としての覚悟

 Puを高濃度で大量に扱うのが高速炉サイクルであり、Puに対する国際的な厳しい目もある以上、国が覚悟を持って実用化見通しが確認できるまでは投資を継続すべきである。自由化で体力の衰えた電力に委ねることは土台無理な話であり、その運営を民間(主に電力、原燃)に委託するという形しかあり得ないであろう。経済性も然ることながら国が核燃料サイクルを結実させるという強い意志を持続しない限りその実用化はできない。研究開発という視点より国家事業の視点から見ると文科省でなく経産省が前面に出る体制が不可欠である。そのためには開発資金を含めた法律改正の必要があろう。もんじゅが廃炉に至った議論は炉の保守管理に関する規定違反の観点であり、国のエネルギー安全保障と次元の異なるレベルで終始したことは誠に残念である。これからも開発にはトラブルなど多くの苦労があるであろうが、工学・技術というものは自ら作って動かして初めて身につく経験学である。失敗を克服して進歩するのである。失敗を許さない社会には進歩はない。高速炉開発を日仏高速炉協定に軸を移して進めてはどうかとのやや視点を逸らせた様子見の意見も聞こえるが、運転プラントが常陽しかないような状態のままでは我が国の高速炉技術は潰えてしまう。先に述べた高速炉先進国には原型炉、実証炉がある。「もんじゅ」(原型炉)を玉成できない国がこれらの国と手を組んでも後塵を拝するだけである。

 戦後のGHQによる航空機開発の禁止のため市場への参入が遅れたように、高速炉も開発が遅れてしまっては属国として甘んじざるを得ない環境を作りかねない。資源小国のわが国にとって自前の技術を持つことこそがエネルギー安全保障そのものである。 (早野睦彦 記)