1. はじめに
沖縄県は、日本の電力システムの中でも特異な位置づけにある。沖縄本島を中心とする中規模系統と、宮古島・石垣島といった小規模独立系統が存在し、いずれも本土系統とは連系していない。このことは、燃料輸送コストの高さ、再生可能エネルギーの変動に対する脆弱性、災害時のレジリエンス不足といった課題を生み出している。特に離島系統では、太陽光発電の導入が進む一方で、出力抑制が頻発し、ディーゼル発電への依存が依然として大きいとされている。
こうした状況を踏まえ、本提言書では、沖縄本島・宮古島・石垣島における小型モジュール炉(SMR)およびマイクロ炉の導入可能性を系統安定性、再エネとの共存の観点から数値シミュレーション(Copilotを使用)により検討した。

2. 現状の課題と導入の必要性
沖縄本島は年間総需要約70億kWhの需要があり、年間での推定の最大発電量は約100~150万kWで、燃料輸送コストの高さが電力料金に反映されている。また、再エネ比率は10〜15%にとどまり、脱炭素化の進展が遅れている。一方、宮古島と石垣島は、年間総需要(2024年度)が、それぞれ推定約3.29億kWhと約3.26億kWhである(1)。最大需要(ほぼ最大発電量)はそれぞれ4〜5万kW、6〜7万kWと小規模であり、太陽光発電の比率が高いにもかかわらず、系統の許容量が小さいために出力抑制が構造的に発生している。これらの島々では、ディーゼル発電が依然として主力であり、CO₂排出量も大きい。
このような状況に対し、小型原子炉(小型モジュール炉やマイクロリアクター)は、燃料輸送リスクの低減、安定したベース電源の確保、再エネ変動の吸収、CO₂排出削減といった複数の効果を同時に提供し得る。
3. 数値モデルによる分析例
本報告では、代表日モデルを用いて、沖縄各島における原子炉容量の違いが需給バランス、再エネ活用度、ディーゼル依存度、に与える影響の評価を試みた。
代表日としては、 太陽光発電の落差が大きい晴天の夏日を取った。また、1日を4つのスロット(時間帯)に分けた。各スロットの需要量や発電量の実測値は公開されていないので以下の方法で推定しモデル化した。
沖縄本島について
- 沖縄電力の 30 分値のデータを取得
- 4 スロット(0–6 / 6–12 / 12–18 / 18–24)に集計
- 需要・PV(太陽光:photovoltaic)・風力の kWとkWh を算出
- 沖縄本島の代表日データとして利用
宮古島・石垣島について
- 系統別の実測値は非公開
- ただし、内閣府の離島調査の設備容量・年間発電量から、代表日を推定することは可能 (例:PV容量 × 宮古島の気象データ → 時間別 PV 推計)
1. 仮定した前提(概算)
- PV 設備容量(2024 年度・概算値)
- 沖縄本島:80万kW
- 宮古島:4万kW
- 石垣島:5万kW
- 典型的夏日のピーク需要(瞬時 kW)沖縄本島: 100万 kW
- 宮古島:6万kW
- 石垣島:7万kW
- 風力設備容量(概算)
- 沖縄本島:15万kW
- 宮古島:1万kW
- 石垣島:1万5 千kW
- 火力発電設備容量(概算)
- 図1 沖縄三島間の距離 沖縄本島:200万kW
- 宮古島:9万4千kW
- 石垣島:10万6千kW
- 夏日のスロットのおおよその特徴
- 0–6 時:需要低め、PV ほぼ 0、風力そこそこ
- 6–12 時:需要上昇、PV 増加
- 12–18 時:需要・PV ともに高い(ピーク帯)
- 18–24 時:需要は高め、PV 0、風力そこそこ
次に導入する原子炉の発電容量であるが、沖縄本島は需要量が大きいので定格容量30万kWの小型モジュール炉を想定した。宮古島と石垣島は、当初、5万kWのマイクロ炉を導入することを考えたが、需要量に対し大きすぎると判断し、2万kWを想定した。なお、火力発電量は、需要量から、原子力と再エネ(太陽光と風力)を差し引いた値とした。需給の関係を調べるにあたり以下のルールとした。
原子炉優先ルール(Nuclear-first)
- まず原子炉(SMRまたはマイクロ炉)がフル出力一定で発電する
- 次に PV → 風力 の順で使う
- 需要を満たして余れば 再エネカット(PV/風力カット)
- 需要が足りなければ 火力(ディーゼル含む)が補う
つまり、スロットごとの電源構成は:


上式は、ゼロと計算値との比較で大きい方を採用することを意味する。評価結果を下表に示す。
表1 沖縄本島の評価(原子炉優先ディスパッチ後)
| スロット (時間) | 発電量需要_kW | 原子炉_kW | PV_kW | 風力_kW | 火力_kW | 再エネカット_kW |
| 0–6 | 600,000 | 300,000 | 0 | 60,000 | 240,000 | 0 |
| 6–12 | 850,000 | 300,000 | 400,000 | 70,000 | 80,000 | 0 |
| 12–18 | 1,000,000 | 300,000 | 600,000 | 80,000 | 20,000 | 0 |
| 18–24 | 900,000 | 300,000 | 0 | 70,000 | 530,000 | 0 |
沖縄本島:再エネカットはなし。
表2 宮古島の評価結果(原子炉優先ディスパッチ後)
| スロット (時間) | 発電量需要_kW | 原子炉_kW | PV_kW | 風力_kW | 火力_kW | 再エネカット_kW |
| 0–6 | 35,000 | 20,000 | 0 | 4,000 | 11,000 | 0 |
| 6–12 | 50,000 | 20,000 | 20,000 | 4,500 | 5,500 | 0 |
| 12–18 | 60,000 | 20,000 | 30,000 | 5,000 | 5,000 | 0 |
| 18–24 | 55,000 | 20,000 | 0 | 4,500 | 30,500 | 0 |
宮古島:再エネカットなし
表3 石垣島の評価結果(原子炉優先ディスパッチ後)
| スロット (時間) | 発電量需要_kW | 原子炉_kW | PV_kW | 風力_kW | 火力_kW | 再エネカット_kW |
| 0–6 | 40,000 | 20,000 | 0 | 5,000 | 15,000 | 0 |
| 6–12 | 60,000 | 20,000 | 25,000 | 5,500 | 9,500 | 0 |
| 12–18 | 70,000 | 20,000 | 35,000 | 6,000 | 9,000 | 0 |
| 18–24 | 65,000 | 20,000 | 0 | 5,500 | 39,500 | 0 |
石垣島:再エネカットなし
以上のことから、仮定した容量の原子炉の導入によりにどの電源も生かしている組み合わせであることが分かる。宮古島、石垣島ではマイクロ炉の出力を1万kW増やすことにより、一部のスロットで太陽光カットが必要になるものの、火力をさらに減らすこともできる。
4. 評価結果
これらの分析結果は、沖縄地域における原子炉導入が、単なる電源追加ではなく、エネルギーシステム全体の構造改革として機能し得ることを示している。特に、宮古島・石垣島のような小規模系統では、原子炉容量を適切に抑えることで、再エネとの競合を避けつつ、ディーゼル発電依存を大幅に削減できる。これは、燃料輸送リスクの低減、CO₂排出削減、電力料金の安定化といった政策目標に合致する。
沖縄本島においては、小型モジュール炉の導入が経済性の改善に直結する点が重要である。その詳細は示さないが、燃料費の削減効果は大きく、CO₂排出量の削減も同時に達成できることが分かる。また、複数基構成とすることで、安定性を確保しつつ、段階的な導入が可能となると考えられる。
5. 提言
以上の分析を踏まえ、沖縄県における原子炉導入に関して、以下の政策方針を提言する。
第一に、島ごとの系統規模と再エネ導入状況に応じた、最適容量の原子炉導入を進めるべきである。具体的には、宮古島には1万〜2万kW級、石垣島には2万〜3万kW級のマイクロ炉を、沖縄本島には20万〜30万kW級の小型モジュール炉を段階的に導入することが望ましい。出力を分割し複数基導入すると、1基が点検中でも他方が稼働し供給安定性が増すメリットが出てくる。
第二に、原子炉を「再エネを補完する安定化電源」と位置づけ、太陽光発電と蓄電池を組み合わせた統合的エネルギーミックスを構築することもできる。これにより、再エネの最大活用と系統安定性の両立が可能となる。
第三に、導入に向けた社会受容性の確保が不可欠である。特に離島地域では、観光産業への影響や住民の不安に配慮し、透明性の高い情報提供と対話の場を設けることが求められる。導入プロセスは段階的に進めるべきである。短期的には技術選定と立地調査、中期的には宮古・石垣でのマイクロ炉導入、長期的には本島での小型モジュール炉の運転開始を目指すロードマップを策定することは一案である。
6. おわりに
沖縄地域における小型原子炉導入が、経済性、環境性、系統安定性のすべてにおいて高い効果を発揮する可能性がある。本提言が、その実現に向けた政策立案の一助となることを期待する。
(植田脩三 記)
参考資料:マイクロリアクターの発電コスト
マイクロリアクターの発電コストについて、最新の公的統計および専門機関の試算に基づいたエビデンス(証拠)と、現状の予測値を整理して示す。マイクロリアクターは現在、実証段階にある技術であるため、コストは「初号機(FOAK: First of a Kind)」と、量産化が進んだ「N番機(NOAK: Nth of a Kind)」で大きく異なる点に注意が必要である(2)。
付表1 マイクロリアクターのコスト(アイダホ国立研究所)(2)
| 項目 | 試算値(マイクロリアクターはNOAK想定) | エビデンス・根拠 |
| 発電原価 (LCOE) | 約21円/kWh ($140/MWh) | アイダホ国立研究所 (2025) |
| 初期投資額 | 約1,100,000円/kW($7,000/kW) | アイダホ国立研究所 量産化モデル |
| 比較:離島ディーゼル | 40〜60円/kWh | 沖縄県・資源エネルギー庁統計 |
参考文献
(1)資源エネルギー庁 都道府県別電力需要実績
(2) Technoeconomic Evaluation of Microreactor Using Detailed Bottom-up Estimate(Rev.1),INL/RPT-24-80433(2024年11月)