トピックス

SEJだより 第58号

民間企業による小型核融合炉での2030年代の発電実証を考える

掲載日:2026.04.03

1. はじめに

近年、世界中で多くの民間核融合ベンチャー企業が、小型核融合炉で「2030年代の発電実証」という看板を掲げ、多額の資金を集めて開発を進めており、マスメディアも盛んに取り上げている。しかし、本当に2030年代に小型核融合炉での実用に供するような発電を実現できるのだろうか、という疑問について考えてみたい。

この疑問が沸き起こった幾つかの観点について考えてみる。先ず、過去50年以上に亘って進めてきた核融合プラズマ研究開発の経緯を振り返り、その後で現在の核融合ベンチャー企業が進めている小型核融合炉の2030年代の実現性について考えてみたい。

2.これまでの核融合プラズマの進展の推移

1)プラズマ性能向上の観点

これまでの核融合開発の歴史を振り返ると、1960年代から装置サイズを大きくしながらプラズマ性能を高めてきた。

図-1に2000年代までの世界の主要なトカマク型核融合実験装置の開発を進めた国々(欧州、日本、米国、ロシア、中国、韓国など)における核融合実験装置の配置、それに各国で進めた実験装置の履歴(各国に示した四角内にある横軸はプラズマ大半径、縦軸は1960年代からの2000年程度までの発展の経過を示し、それぞれに示した楕円形状や円形はプラズマの断面形状と大きさを示す。この図に示すようにほぼ時代と共にプラズマの規模を拡大しながら開発を進めてきた。このような核融合実験装置により達成したプラズマ性能を図-2に示す。この図から1960年代からほぼ10年ごとに一桁ずつ 性能が上がってきて、1990年代には大型トカマク実験装置と言われたJT-60UやJET, TFTR, DIII-Dなどで、核融合反応で発生するエネルギーと核反応開始までプラズマを加熱するパワーがほぼ等しくなる、いわゆる臨界プラズマ条件まで達した。このようにプラズマ性能は装置サイズの大型化、それにプラズマ断面形状やプラズマ電流分布の最適化等の努力により、大きな進展を可能にした。

図-2の中には逆転磁場ピンチ装置やヘリカル装置についても進展度合いを記している。

逆転磁場ピンチは一時期、米国、日本などを中心に精力的に研究が行われたが、その後、あまり顧みられなくなった。現在のいくつかの核融合ベンチャーがこの逆磁場ピンチ装置を応用したタイプでの小型核融合装置を目指している。またヘリカル装置についても米国のオークリッジ、独のマックスプランク、日本の京都大、核融合研(LHD)などで多くの研究が精力的に進められたが、これまでのところトカマク装置の性能には及ばないでいる。

これらのトカマクを主とした実験結果を基にして、プラズマサイズを更に大きくすることでプラズマが持続的に核融合反応を持続できる自己点火条件に達すると評価された。

このような経緯からITERサイズプラズマを生成する装置建設を目指したが、コストが5000億円以上と見積もられ各国独自で建設するのは経済的リスクが大きいため、日米欧露の4か国が国際協力でITERを建設することに合意した。その後、このITER計画は紆余曲折があって、2000年前後にインド、中国、韓国も参加することになった。ただこのITER計画は国際協力での合意形成の難しさから計画は大幅に遅れ、当初の2010年代の実験開始予定から20年前後も遅れて2034年実験開始になっている。

他方、このようにITER計画が大幅に遅れたことから、核融合研究者の一部で、装置をコンパクト化して安価な装置での核融合を早期に実現しようとするグループが現れ、多くが核融合ベンチャーを起業して小型装置での発電実証を目指したプロジェクトを立ち上げた。

2)プラズマ放電時間の長時間化とプラズマ閉じ込めの観点

トカマク装置は、変圧器の原理で1次側コイルの磁束フラックスを変化させて2次側のドーナッツ状プラズマに電流を励起するため、原理的にはパルス運転しかできない。しかし1980~1990年代にJT-60UでNBI(Neutral Beam Injection)やRF(Radio Frequency)波入射による電流駆動が実証され、更にプラズマ中の密度勾配を利用した自発電流も見出されて、トカマクでも定常運転できることが実 証された。しかし当時は常伝導コイルのために長時間運転は不可だった。その後、世界的に超電導コイルを使用したトカマク装置が開発され、仏のTore-Supla、中国のEAST、韓国のKSTARなどのトカマク装置で、ある程度のプラズマ性能を維持しながら放電時間を伸ばし、特にEASTでは約1000秒放電まで達成した。日本でも1990年代に九州大学の超電導コイル使用の小型トカマク装置TRIM-1MでRF電流駆動により2時間の長時間放電運転を実現している*。

しかしながら、図-3にあるようにこれまでは、核融合反応の目安であるプラズマ三重積(プラズマの密度x温度x閉じ込め時間の3要素)を満足する高性能プラズマを維持しながらプラズマ放電時間を伸ばすのは至難の業で、低性能プラズマでしか放電の長時間化は実現できてない。例えば、1990年代にJT-60Uでは、世界最高性能のQ=1.25(プラズマ加熱パワーに対して核融合出力が1.25倍になる)を達成したが、この持続時間は1秒以下であった。これはプラズマ性能が上昇すると、プラズマ中に不安定現象が発生しやすくなり、瞬時にプラズマが消滅する、いわゆるデスラプションが発生したためである。つまりプラズマ性能の上昇ともに不安定性を抑えるためのプラズマの制御の最適化が必要であり、このための根気強い研究開発が必要である。。

一方、LHDのようなヘリカル装置では、プラズマ中に電流は存在しないのでプラズマ電流に起因する不安定性が起こりにくく、トカマク型と比べると長時間放電が比較的楽になる。しかしこれまでの結果では、ヘリカル型でのプラズマ閉じ込め性能はトカマク型での性能には遠く及ばないでいる。

*)伊藤他、プラ核学会誌、75-3(1999)p286

3. 現在の核融合発電に向けた計画

現在、核融合発電に向けた基幹戦略としてITER計画が進展中であるが、上記のように多くの民間核融合ベンチャーが、革新的なプラズマ運転条件によりプラズマ不安定性を克服し、従来の核融合プラズマ生成条件から大きくステップアップすることで、2030年代に小型装置による核融合発電の実証を目指している。

民間企業が進めている小型装置の最も大きな特徴の一つが、高温超電導コイル(従来の超電導コイルは4K程度の極低温が必要だったが、高温超電導は20K~100K程度の低温での動作が可能)の採用でより低コストでのコイル製作が可能になったこと、より高磁場の生成が可能になったことである。ただこの超電導コイルが強磁場下での機械的強度に耐えて長期間に亘って安定した運転が出来るかどうかはこれからの実証試験にかかっている。もし高温超電導コイルが強磁場での共用に資することが判明すれば、装置製作のコスト面で画期的な進展になる。

これらの小型装置により、仮に核融合点火条件を満足するプラズマ性能が実現でき、かつこれを長時間に亘って維持することができたなら、まさに驚天動地の出来事となるであろう。

4. 核融合炉を実現するために克服すべき課題

 ITER計画も含めて核融合発電を実現するためには下記のような課題を克服する必要がある。これらは何れも容易に克服できるものではなく、地道な研究開発と従来の枠を飛び越えた新たな技術革新が必要となる。

・長時間の14MeV中性子照射に耐える材料

・ダイバータ等での高熱負荷の取り扱い

・トリチウムの確保と取り扱いと燃料増殖率>1の確保

・増殖材としてのLi資源の確保

・核融合炉の構造複雑性に起因する保守性の向上

一般的に小型核融合炉実現が厳しいとされる点は、まず核融合反応の成立条件である高温・高密度・長時間閉じ込めの三重積(ローソン条件)を満たすために、装置サイズがプラズマ性能に直結する点にある。小型化するとプラズマのエネルギー損失が増大し、必要な加熱入力が相対的に大きくなる。また小型化のために中性子遮蔽やブランケット厚さを減少させると超電導コイルへの中性子負荷の増大やトリチウム増殖率>1の確保が困難になる問題も起こる。さらに高熱負荷を受けるダイバータやブランケット対向壁に対する単位面積当たりの熱負荷は小型化するほど大きくなって、技術的成立性が危うくなる。また装置各機器の短寿命化や保守性の悪化なども重なり、装置の稼働率維持は困難になる。

5. まとめ

以上の観点からすると、現在、世界中で話題となっている民間ベンチャーが開発を進めている核融合装置で、自己点火により定常的な核融合反応を持続させ、その出力で発電した電力を系統に供給することは至難の業と考えざるを得ない。一方、国際協力で進められているITERは、燃焼プラズマ生成に関わるすべての条件を満足する性能が期待できる。ただITERは以前から指摘されているようにあまりにも巨大な装置であり、将来の核融合発電を見据えた場合には大幅なコンパクト化を図る必要がある。このコンパクト化の技術は現在、民間ベンチャーが進めている装置の方向性と合致しており、将来的はこれらの技術を融合することで経済的な核融合炉建設が可能になることを期待したい。(栗山正明 記)