トピックス

SEJだより 第57号

直ちに取り組むべき!原子力発電所の新設、増設を具体化するための法整備及び体制整備

掲載日:2026.03.11

1 はじめに
 刈羽6号機の運転再開の動きや北海道泊3号機の地元理解が進み再稼働の動きがみられることは原子力発電に対する国民理解が深まるうえで喜ばしいことである。
日本は経済運営の誤りもあり、1990年代以降経済成長が停滞し、失われた30年といわれているが、この間、電力需要がさほど伸びていないことから電気事業者にとって原子力発電の新増設はまだまだ先のことと理解されてきたきらいがある。
 昨年末から高市政権が発足し、世界の激しい構造変化も踏まえ、強い日本経済を実現する上でエネルギ―政策は国の安全保障上重要であり原子力の開発にも理解が深まっている。
新しい施策が展開され、経済成長により電力需要が増えていくと予想されるが、特に留意すべきこととして、産業構造、社会構造に大きな変化をもたらすAIの進展が電力需要を大幅に増大する要因となると予想される。AIは24時間稼働するので基幹電源である原子力発電による安定した電力供給が要求される時代を迎えることになる。このような背景から原子力発電の今後の新設、増設を計画的に進めるための体制整備が急務となっている。

2 原子力発電の新設、増設環境の現状
 日本は90年代から電力自由化を進めてきたが、原子力開発は長期を要し、高リスク電源であることから自由化市場には本来不向きなことは自明であろう。自由化によって発電部門は原子力を含め全ての電源が自由競争の環境下にあり、原子力発電の開発選択は電気事業者それぞれの経営判断のもとで決定される仕組みとなっている。
 原子力を含むエネルギ―政策の基本事項は2002年のエネルギ-政策基本法12条により政府がおおむね3年に一度エネルギ-基本計画を策定し閣議決定を経て政策文書として公表されている。第7次基本計画では新たに原子力の最大限活用を提示し、エネルギ-需給見通しでは、新増設、リプレースを含め検討するとの方針表明をしている。しかし、目標年度における原子力依存率の程度を示すだけで、新増設が何基必要か建設時期や立地場所など開発計画の具体性はなく国の取組みの基本的考え方を提示することにとどまっている。したがって現状では原子力発電の具体的な長期開発計画は存在していない。

3 AIの進展は電力需要にどのような影響を与えるか
 米国の場合データ-センター数は4000超(日本の17倍)になっているが、ニューヨーク時事の記事によれば、今後の10年間でAIの進展により電力需要増は原子力発電所(百万kw級)150基分に相当するとしている。また、国際エネルギ-機関(IEA)の予測では2024~2030にかけて世界全体でAIサーバーの電力使用量は5倍に膨らむとしている。日本ではAIの進展による電力需要予測の長期モデルは体系化されていないが、シンクタンクの予測によれば2050年にはAIの電力需要は現在の電力需要の約1割前後と予想しているので原子力発電10数基の発電量に相当することになる。

4 原子力発電所の新設、増設について具体的な長期開発計画を策定する必要がある
 原子力開発長期計画の策定は現実を考慮すれば、国が自ら策定する他の選択はあり得ないと言わざるを得ない。これまで国が為し得なかったのは、電力自由化との整合性に係る議論や国が決めることにより実行責任を国が負うことになるのではとの議論に加え、法的にも国の授権を明示した根拠法が存在しないため国には策定資格がないと理解されてきた。
 このため原子力発電の長期開発計画を国が主体となって策定する権限を付与する法的な措置が必要となる。具体的には、エネルギ-政策基本法を改定し国の長期計画策定義務を明示するやり方や原子力発電所開発整備特別措置法(原子力長期開発計画特別法)等の特別法を制定し権限付与を明確にする考え方もありうる。この場合、電力自由化体制との関係については、国が主体的に関与し長期開発計画に基づく電源は非自由化対象電源とし、自由市場において既に存在する既設炉に加え長期開発計画の対象炉であっても開発主体が民間事業者で自由化対象炉を選択する場合は自由化対象電源として扱うこととし、非自由化対象と自由化対象電源が混在することを認める制度とすることのほうが現実的と考える。
特別法の制定は複雑性もあり、現状のエネルギ-基本計画との関連もありエネルギ-政策基本法の改正を採用するほうがスピーディに法整備を実現できるのではないかと考える。
 以上のような考え方は、原子力エネルギ―を単に電力需要の供給力と見るのではなく、エネルギ―安全保障確保策を実現する基幹電源として、国家が備えるべき公共インフラとみなすことである。なお、長期計画の計画期間はおおむね30年から50年程度とする。
 原子力エネルギ-の開発を市場に委ねることなく国家の主権のもとで原子炉の建設基数などを国家長期計画として定め、建設、運転、廃炉などを一体として国営企業のEDFが実施しているフランスの例から日本は学ぶべきことが多いのでなかろうか。

5 長期開発計画に盛り込むべき主要事項
 ①  目標年度、計画電力需要量、開発基数、開発者(国が直轄又は電気事業者)開発炉、   
開発の時期、開発地域場所、開発によるコストと電力料金への影響などの基本事項
 ②  開発地域(地元)との調整事項(立地協議制度を法制化した場合)、(法制化は必要)  
 地元と法定立地協議の実施内容。(たとえば協議期間は2~3年と限定する)
(地元関与は無制限の拒否権ではなく条件設定権とし、決定権は国と規定する)
 ③  安全対策、防災、インフラ整備、医療対応方針、避難計画 固定資産税、交付金長期         
保証などのうち国が直接関与すべきものについて対応方針
 ④  国が開発主体となる場合は発生電力を長期購入し自由化市場とは別に小売割りする
長期開発計画決定の正当化を図るため、独立委員会の意見聴取、パブリックコメントの義務化や特に重要事項について国会報告または承認事項とする考えかたもある。

6 原子力発電の開発を進める上でこれまで述べてきたことに加え必要な改善策の例
 ① 投資リスクを下げる総括原価方式の復活、収入保障制度の充実強化
 ② 原子力損害賠償制度の改正 事業者の無限責任制度を改定し、国際的に認められている事業者の補 償上限額を定めるとともにこれを超える額は国の補償とする。
 ③ 標準炉の型式認証制度の採用により同一設計炉の安全審査は簡素化し建設コストの低減と工期の短縮化を図る。            
(佐々木 宜彦 記)