1. はじめに:日本の「海」は、もう一つの国土
日本は国土の面積が世界の0.3%ほどしかありませんが、**領海と排他的経済水域(EEZ)**を合わせると、その広さは約447万平方キロメートルにのぼります。これは世界でも6位に入る広さであり、日本の「海の国」としての潜在力は非常に大きいといえます。しかし、この広大な海洋空間をどこまで有効に活用できているかというと、現状はまだ限定的です。漁業や海運には利用されていますが、エネルギー資源・鉱物資源・環境技術の面では開発が進んでいません。一方、他国はすでに海洋を「新たな産業の場」として積極的に開発しています。こうした中で、日本が持つ科学技術、特に「原子力技術」を海洋分野に応用することが、今後の国家戦略の一つになると考えられます。

2. 海洋で原子力を使うという発想
原子力は、電力を安定して大量に生み出せる技術です。陸上では発電所として広く利用されていますが、実は海でも使うことが可能です。以下に、海洋で原子力を応用できる代表的な4つの分野を紹介します。
2.1 船舶の推進
原子力を動力源とする船は、燃料を長期間補給しなくても動けるため、遠洋航海や軍事利用に向いています。。日本でも原子力船「むつ」(原子炉:三菱原子力工業製加圧水型軽水炉(熱出力 約36 MW)、蒸気発生器による蒸気タービン(出力 10,000 PS (7,400 kW))(1)が開発されていました。わずかな放射線漏れが問題となり廃炉とされ開発は頓挫してしまいましたが、十分な原子力船技術の下地があります。
すでに米国やロシアでは、潜水艦・空母・砕氷船などで実用化されています。さらに、海底資源探査船や長期航行型作業船など、民間の特殊船への応用も期待されています。2025年10月、米国のMITは、「原子力船ハンドブック」(2)を発行し、民用の原子力船を応援しています。しかし、運用コストや安全管理、人材育成といった課題が残っていると考えられます。
2.2 浮体式原子力発電所(Floating Nuclear Power Plant: FNPP)
浮体式原子力発電所とは、海上のプラットフォーム(浮かぶ施設)に原子炉を搭載し、発電を行う仕組みです。すでにロシアが実用化(3)しており、寒冷地や離島、沿岸地域への電力供給に利用されています。日本でもベンチャー企業が設計段階に入っており(4)、災害時のエネルギー供給拠点や洋上インフラの電力源として注目されています。プロジェクトリーダーの姉川氏によれば原子炉の出力は50Mwe程度である。
2.3 小型モジュール炉(SMR)とマイクロリアクター
近年注目されているSMR(Small Modular Reactor)は、工場で製造して運ぶことができる小型原子炉です。建設期間が短く、安全設計が強化されているのが特徴です。さらに小型のマイクロリアクターは、1万~2万世帯規模の電力を供給できる超小型炉で、研究拠点や離島での利用が想定されています。これらは海上施設や遠隔地の自立型電力源として有望です。
2.4 海底資源開発
海底にはレアアース(希土類)やマンガン団塊、コバルトリッチクラストなどの貴重な資源が眠っています。これらを採掘・精錬するには大量のエネルギーが必要です。原子力による長時間運転が可能なプラットフォームを用いれば、洋上で採掘から精錬、製品化までを一括して行うことが可能になり、環境汚染防止にも役立ちます。
3. 海洋原子力利用に伴う課題
海で原子力を使うには、多くの課題があります。主なものを整理すると次の5点です。
・安全・放射線リスク
海難事故、衝突、腐食、台風など、海特有のリスクがあります。 放射性物質が海に漏れた場合、生態系や漁業に深刻な影響を与える可能性があるため、厳重な安全管理が求められます。
・法規制と国際関係
原子力は国内法(原子炉等規制法など)だけでなく、**国連海洋法条約(UNCLOS)**など国際法の影響も受けます。周辺国との協議や、国際的な説明責任も重要です。
・経済性と燃料供給
原子炉の建設コストや燃料供給ルート、廃棄物の処理費用などを含め、事業全体の採算性を確立する必要があります。
・環境への影響
温排水、堆積物の拡散、海底生態系の破壊など、環境への配慮も欠かせません。 環境影響評価(EIA)と長期モニタリングが必要です。
4. 南鳥島近海の「海上都市構想」:都市の概要とエネルギーと熱の有効利用
日本が海洋原子力の活用を最も現実的に可能性のある場所の一つが、南鳥島の近海です。南鳥島は東京から約1,900km離れた孤島で、周辺の海底には高品位のレアアース泥が存在します。日本では現在、内閣府が南鳥島近海のレアアース泥を活用する計画(5)を進めています。2026年にもレアアース泥の採集を試みるとされています。一方、本報では、夢に過ぎないといわれるかもしれませんが、より最終製品に近づいた製品をも製造・輸出できる**海上に浮かぶ自立型都市(海洋都市)**を提案したいと思います。その概要は以下の通りです。
・人口規模:約6,000人
6000人のおおよその内訳は表1のようになると考えられます。

・主な活動:レアアースやマンガン団塊の採掘・精錬・製品・輸出
海底資源(レアアース 2,000 t/年、ニッケル 5,000 t/年)を採掘・精錬・製品化すると想定
・エネルギー・発電構成:SMR(小型モジュール炉) 3基(各100MWe)+マイクロリアクター1基(20MWe)
供給電力:約273MWe(常時平均)+プロセス熱;約600MWth
SMRは発電だけでなく、**高温の熱(蒸気や温水)**も生成することができます。この熱を、精錬工程の乾燥・焼成・濃縮や、海水の淡水化などに利用することで、電力と熱を同時に活用する「コジェネレーション」型の都市運営が可能とします。また、余剰電力は水素製造や蓄電池充電に活用でき、エネルギーの循環型利用が実現します。
マイクロリアクター(20MW/基)を20基程度設置する案も可能と考えます。マイクロリアクターであれば、工場で燃料を装荷し、寿命が来ればそのまま本土にある工場に持ち帰り、新規の炉と入れ替えることも可能となるかもしれません。再エネは補完利用とします。
・ゾーニング(機能分担)
基地を効率的に利用するためゾーニング方式を採用し、大きく以下の3つのゾーンに分けます。
発電・物流ゾーン:原子炉やバックアップ電源を配置、物資・人員輸送、物流拠として使います。
工業ゾーン:採掘した鉱物を精錬・加工します
居住・商業ゾーン:住宅・学校・病院・商業施設を備えます
海上都市全体の面積は約4平方キロメートルとし、複数の鋼製浮体モジュール(ブロック)橋で連結して構築することを考えます。将来の拡張にも対応できるように設計します。一方、鋼製構造物の寿命は必ずしも長くはないので、寿命評価、寿命延長、耐環境材料の開発は極めて重要になります。これらを体系的に進めることで、安全で持続可能な具体的海洋都市モデルを構築できると考えられます。参考としてGEMINIに描かせた海上都市のイメージ図を第2図に示します。

5. まとめ:海の上に拓く日本の未来
日本は、海洋面積と高度の技術力という2つの資源を持っています。これを組み合わせれば、海の上に「第2の国土」を人工的に築くことも可能と考えられます。一例として取り上げた南鳥島海洋都市構想は、単なる夢ではなく、エネルギー安全保障・資源確保・科学技術発展を同時に達成できる国家的プロジェクトとなりうるといって差し支えないかもしれません。原子力をエネルギー源として活用すれば、日本は世界に先駆けて「先進的な海洋立国モデル」を提示できるでしょう。
第2図 海洋都市のイメージのイラスト図(GEMINI作成)
(植田脩三 記)(Suported by Chat GPT and GEMINI)
参考文献
1. 原子力船むつ:https://www.jaea.go.jp/04/aomori/nuclear-power-ship/
2. Nuclear Ship Safety Handbook:https://dspace.mit.edu/handle/1721.1/163117
3. ロシアの浮体式原子力発電所 ロシアが生んだ史上初の浮体式原発は果たして危険なのか – ロシア・ビヨンド
4. 【浮体式原子力発電所】 ;abc5620262373a2fc04d74316d9422ae0be5d8d3.pdf
5. 特定離島である南鳥島とその周辺海域の開発の推進について: https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/sanyo/dai76/76shiryou1_1.pdf