1. はじめに
アメリカは本気で原子力改革に取り組んでいる。原子力エネルギーの重要性についての理解は、共和党のみならず民主党政権においても変わらずこれまで継続的取り組みが行われてきている。両党とも原子力を国の安全保障の中核と捉えているためである。この背景には現在世界で建設中の原子炉の大部分は中国・ロシアによるもので技術力・経済性などで圧倒されているなど、原子力分野における覇権がアメリカから中・ロに移っている現状がある。
ドナルド・J・トランプ大統領は、2期目になり米国の原子力改革を国家生存戦略の位置づけで、2025年5月23日に4つの大統領令(Executive Order【EO】14299, 14300, 14301, 14302)に署名した。これは米国のエネルギー政策における劇的な転換点を示している。4つの大統領令セットで、原子力エネルギーを「国家安全保障」「AI覇権」「産業競争力」の中核に据えるという、極めて野心的な戦略となっている。米国内ではこの4本の大統領令について、それぞれ関係機関が鋭意取り組みを進め着々と進行している。
中でも米国エネルギー省(DOE)における先進原子炉試験の改革を目的とする大統領令14301号(EO 14301)の進捗は順調であるように見える。例えば大統領は「2026年7月4日までに少なくとも3基の試験原子炉を建設・運転し、臨界を達成する」という目標を掲げた。その目標は大統領令から1年程度で原子炉を新しく3基作り臨界にもっていくという、米国内でも不可能との見方が多くあるものであった。ご存じのように今年の7月4日は米国建国250周年の独立記念日であり、この日を目指して成し遂げようというトランプ大統領の意気込みが感じられた。結果的に、7月4日までに先進炉を3基作り臨界にする目標は達成された。大統領の命じた期日が厳守されたのである。
まず、本報では大統領令の中で象徴的ともいえる先進炉3基の進展状況について紹介し、次に4つの大統領令全体の概要について触れたい。また世界的なインパクトが予想されるNRCによるALARAの撤廃の検討が進み、7月1日にはNRCの原案が公表された点も重要である。
2. 原子炉パイロットプログラムの始動
DOEが先導する計画
トランプ大統領は、DOEに対して米国の核ルネッサンスを進める主導的役割を果たすように求めている。これはDOEの原子炉試験に関する試験プロセスを改革・合理化し、先進原子炉設計、製作、臨界までの過程を迅速化するものである。このためDOEは新たな原子炉パイロットプログラム(Reactor Pilot Program)を立ち上げた。この計画はDOEの権限を最大限活用し、先進原子炉技術の研究開発を加速し2026年7月4日までに少なくとも3つの先進原子炉を臨界までもっていくという目標を実現するものである。
11の先進炉プロジェクトを採択:
DOEは2025年6月18日にこのプログラムに関する申請依頼を開始し、2025年8月、当該大統領令に基づき、民間企業主導の次世代原子炉開発を支援する原子炉パイロットプログラムの初期対象として11のプロジェクトを選定した。
選定された企業は、Antares Nuclear, Valar Atomics, Radiant Energy、Aalo Atomics、Atomic Alchemy、Deep Fission、Last Energy、Oklo、Terrestrial Energy、Natura Resources, Standard Nuclear,である。
2026年7月4日までに臨界を達成した原子炉は以下の3基である。
- Antares Nuclear社
アイダホ国立研究所(INL)において, 2026年6月4日に最初に原子炉パイロットプログラムの下でAntares Nuclear社が開発しゼロ出力臨界を達成したのがMark-0炉である。この炉はマイクロリアクターであり、ナトリウムヒートパイプ冷却炉である。燃料はBWXテクノロジー社の製造した三重被服粒子燃料(Tri-structural Isotropic TRISO)の高純度低濃縮ウラン(High-Assay Low-Enriched Uranium HALEU)燃料を使用している。この燃料は「地上で最も堅牢な燃料」とも評されきわめて高温でも溶融しないとされている。この炉は、NASAの月面核分裂発電への対応であるとか、戦争省(DOW)の米陸軍の可搬式原子炉プロジェクト{Project Pele}に活用することが想定され、極限状態においてメンテナンスフリーで10年程度使用するために開発された。
Antares社は、この成功を踏まえ今年中に原子炉設計を最終決定し、2027年までに実運用を開始し、2028年までに米軍基地へマイクロ炉として配備することが計画されている。

Us-DOE Press Release 20260604 より
- Valar Atomics
Valar Atomics社の開発したWard250炉は、2026年6月18日に原子炉パイロットプログラムの下でマイクロリアクターとして二番目に臨界を達成した炉となった。この炉は2025年9月にユタ州で着工され、2026年2月にカリフォルニアで製造された燃料が空軍によりユタ州に空輸組み立てされ臨界に至った。この炉も三重被服粒子燃料(TRISO)の5MWの黒鉛減速、ヘリウム冷却炉である。この炉は国立研究所外で最初に臨界を達成したこととなった。臨界達成の数日後には、10kwの熱エネルギー発電を行った。
また、今後の実用性にかかわる特徴として、
- 物流実証(Janusプログラムなど)としてDOWとの共同実証事業としてカリフォルニアのマーチ空軍予備役基地から8つのモジュールに分解され、ユタ州のヒル空軍基地に空輸され目的地のエメリー郡のサン・ラファエル・エネルギー研究所(USREL)に到着し運転に至った。
- NVIDIAの最新AI半導体「Blackwell(ブラックウェル)」を直接駆動させる画期的な実証実験に成功した。
などがあり、今後の実用性にも期待されている。

Valar Atomics Ward 250 Reactor がC-17に積み込まれる様子 USDOW HPよ
③Deployable Energy社
Deployable Energy社が開発したUnity炉(Unity Nuclear Battery UNB)は、2026年7月1日にアイダホ国立研究所(INL)の国立原子力イノベーションセンター(National Reactor Innovation Center NRIC)が管理する原子力発射台イニシアチブ(Nuclear Energy Launch Pad initiative LP)の一環として進められ臨界に達した。
この炉は、HALEU燃料などを使用せず既存のサプライチェーンで今すぐにでも大量に生産できることを優先した計画となっている。
燃料は、一般的な低濃縮燃料(4,95パーセント低濃縮二酸化ウラン燃料)を使用している。炉心は軽水減速で、一時冷却ループは循環するヘリウム冷却となっている。
INLでのプロジェクト開始から臨界までわずか150日という驚異の短期間での達成であり、かつ予算も数百万ドルと言われ極めて低コストでの開発である。
原子炉は量産を目指しているが、標準的な20フィートのコンテナに収まり、ヒューストンの同社の工場で大量生産に入ることが計画されている。2028年の商業化の予定で、商業化の暁にはデータセンター、リモート地域、防衛用としての活用が想定されている ここで国立原子力イノベーションセンター(NRIC)と発射台プロジェクト(Launch Pad USA Launch Pad INL)について簡単に説明する。国立原子力イノベーションセンター(NRIC)は、原子炉パイロットプログラムが成功したことを踏まえ、先端原子力技術の民間企業による急速な開発を促進することを目的として、発射台プロジェクト(Launch Pad USA Launch Pad INL)を開始した。このイニシアチブは「連邦及び非連邦の土地において、柔軟な技術的及び規制の枠組みを用いて先進的な原子力技術の展開を加速させる強固な「エコシステム」として進められているプロジェクトである。
以上のように、DOEの立ち上げた原子炉パイロットプログラム(Reactor Pilot Program)は成功裏に進んでいる3基の設計コンセプトはそれぞれ特徴があり今後宇宙開発に使われることになるのか、極地で使われるのか、米国から遠く離れた軍事基地に配備されるか、あるいは電力需要の大きいデータセンター用に使われることになるかその展開は極めて楽しみである。
3. 規制・環境審査の迅速化(NRCからDOEへの管轄移行)
さて、この短期間での原子炉の開発は現在の日本の規制環境では不可能である。それを可能にしているのはトランプ大統領令の強いリーダーシップのみでなく、規制面でのNRCとDOEの連携、開発面でのDOEとDOWの連携などがある。この関係も極めて興味深いので、以下に紹介したい。
通常、米国で民間企業が商業目的の原子炉を建設・運転する場合、原子力規制委員会(NRC)の厳格な審査(Part 50やPart 52など)を受ける必要があり、これには数年単位の時間と莫大なコストがかかる。
しかし、今回の先進炉パイロットプログラムでは、原子カエネルギー法(Atomic Energy Act: AEA)に規定された例外措置を活用している。ポイントは以下のとおりである。
- DOEが自ら規制・認可機関になる:
研究開発(R&D)および政府が関与する実証プロジェクトの枠組み(AEA Section 91(b)や、DOEの内部安全規制「DOE Order 420.1C」など)を適用する。 - 政府保有地(国立研究所)の活用:
プロジェクトは、アイダホ国立研究所(INL)などのDOE所有の敷地内で行われる。これにより、原子炉は「NRCのライセンス対象」から外れ、「DOEの安全認可(DOE Authorization)」のみで建設・運転が可能になる。 - DOEと連携した実証試験の例
Radiant社の試験開始:
Radiant Energy社が開発する「Kaleidos」マイクロ炉が選定され、アイダホ国立研究所(INL)のドーム施設での実証試験に向けた準備が進められている。
4. 環境審査(NEPA)の大幅な迅速化と「一括除外(Categorical Exclusion)」
米国では連邦政府の資金や土地が関わるプロジェクトにおいて、国家環境政策法(NEPA)に基づく厳格な環境影響評価(EISやEA)が義務付けられており、これが開発の大きなボトルネックとなっていた。
DOEはこの手続きを迅速化するため、以下の措置を進めている。
- 「一括除外(Categorical Exclusion: CX)」の適用拡大:
環境への影響が微小であると過去のデータから実証されている活動について、個別の環境審査を完全に免除する仕組みである。 - 先進炉への新規則適用:
DOEはマイクロ炉(超小型原子炉)、小型モジュール炉(SMR)、第IV世代原子炉などの実証・試験、およびそれらに伴う国立研究所内の土地リースや施設変更に対し、この「一括除外」を適用できる新たな規則整備を進めた。これにより、通常なら1〜3年かかっていた環境審査プロセスが「数週間から数ヶ月」に短縮される。
この措置がもたらす具体的メリット
2026年7月の期限達成への唯一のルート:
大統領令が定める「2026年7月4日までの臨界達成」という超短期目標は、NRCの通常審査(最短でも2〜3年)を経由していては物理的に不可能である。DOE管轄への移行により、このタイムラインが可能になった。
「実験室から市場へ」の橋渡し:
民間企業は、まずDOEのセーフヘイブン(安全な避難所=国立研究所)で迅速にプロトタイプを動かして実証データを集めることができる。そのデータを手土産に、将来的な商業化の段階で初めてNRCのライセンス審査に挑む、という「二段階戦略」が取れるようになった。
5. 2025年5月の4本の大統領令の概要
2025年5月23日に署名された4つの大統領令(EO 14299, 14300, 14301, 14302)。これは先に述べたように米国のエネルギー政策における劇的な転換点を示している。各大統領令の要約、大統領の全体的な戦略、米国機関の今後の行動、そして日本への影響について記す。
1) 4つの大統領令の要点
まず、4つの大統領令の要点を以下に取りまとめる。
- 大統領令 14299:国家安全保障のための先進原子炉技術の導入
大統領令は、原子力を「電力源」としてだけでなく、AI覇権と国防(軍事施設)のための「戦略物資」として位置づけている。
a) AIデータセンターへの電力供給: エネルギー省(DOE)に対し、AIデータセンターを「重要防衛施設」として指定し、原子力による電力供給を優先するよう指示した 。
b) 軍事利用の加速: 陸軍に対し、2028年9月30日までに米国内の軍事基地にて原子炉の運用を開始することを命じた 。
c)輸出戦略: 原子力協定(123協定)を推進し、第120議会終了までに少なくとも20の新規協定締結を目指し、同盟国への輸出を強化する 。 - 大統領令 14300:原子力規制委員会(NRC)の改革命令
本大統領令は、米国の原子力開発を停滞させてきた最大の要因はNRCの「過度なリスク回避」にあると断じ、「規制の番人」から「推進を念頭にした規制」を指示した。
a) 現状の否定: NRCは1978年以降、わずか2基しか商業運転に導いていない失敗を指摘し 、放射線被ばくに関する線形閾値なしモデル(LNTモデル)を科学的根拠に欠けるとして再検討を命じた 。
b)期限の設定: 新規原子炉の建設・運転申請の審査期間を「最大18ヶ月」、既存炉の延長審査を「1年以内」とする厳格な期限を設けた 。
c) 目標: 2050年までに米国の原子力発電容量を現在の約100GWから400GWへ拡大することを目指すこととした 。
- 大統領令 14301:エネルギー省における原子炉試験の改革
本大統領令は、研究開発のスピードアップに焦点を当て、国立研究所の官僚主義的な体質を打破することを目指している。
a) 試験プロセスの迅速化: 「適合試験用原子炉」の定義を定め、申請から2年以内にDOE施設内で運転可能にする体制を構築している 。
b) パイロットプログラム: 国立研究所外での原子炉建設パイロットプログラムを設立し、2026年7月4日(独立記念日)までに少なくとも3基の原子炉を臨界に到達させるという極めて短期的な目標を設定した 。
c) 環境審査(NEPA)の簡素化: 迅速な建設のため、環境アセスメントの手続きを大幅に簡略化または免除する権限を行使することとした 。
- 大統領令 14302:原子力産業基盤の再活性化
本大統領令は、ウラン濃縮や燃料サイクルにおける外国依存(特に敵対国)からの脱却と、国内産業の再構築を目的としている。
a) 燃料サイクルの強化: 使用済み核燃料の再処理・リサイクルに関する国家政策を策定し、廃棄物とされていたものを資源として活用する方針へ転換する 。
b) ウラン濃縮能力の拡大: 民間および防衛用原子炉(AIデータセンター含む)に必要な低濃縮ウラン(LEU)および高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)の国内供給体制を構築することとしている。
c) 具体的数値目標: 既存炉の出力増強(5GW分)に加え、2030年までに「10基の新規大型原子炉」の建設を開始させるという野心的な目標を掲げている 。
2) 大統領の全体的な考え方
これら4つの大統領令を貫く考え方は、「エネルギー優位性こそが国家安全保障と経済繁栄の源泉である」というエネルギー優位性(Energy Dominance)思想であり、中国という対抗国に負けられないという意志である。
① リスク許容度のパラダイムシフト 従来の「ゼロリスク」を追求する規制行政を「国家の衰退を招くコスト」と断じた 。放射線防護基準(LNTモデル)の否定は、これまで続いていて一向に収束しない科学的議論も踏まえた政治的決断である。
②AIと原子力の不可分な統合 AI覇権争いにおいて、膨大な電力を消費するデータセンターの電源確保がボトルネックになることを見越した。これに対しAIインフラを「重要防衛施設」と定義し 、そこに原子力を直結させることで、他国(特に中国)に対するAIの性能すなわち多くの電力を消費する計算能力とエネルギー安全保障の優位性を確保しようとしている
③「作る」ことへの執着 研究開発(R&D)で終わらせず、実際に「建設し、稼働させる」ことに重きを置いている。2026年、2028年、2030年といった具体的な短期期限を設定している点は、官僚機構に対する強い不信感と、結果への焦燥感の表れと言える。
④脱・外国依存と輸出攻勢 ウラン濃縮や原子炉技術でロシアや中国に依存している現状を打破し、逆に米国技術を同盟国に輸出して「原子力による陣営形成」を図ろうとしている 。
3) 同時に出された他大統領令4つのパッケージの相互影響
トランプ大統領は2025年5月23日、EO 14301を含む4つの原子力関連大統領令を同時に署名した。これらはバラバラに機能しているのではなく、「燃料確保 → DOEでの超高速実証 → NRCでの商業化 → 戦争省による買い取り」という巨大なエコシステムを形成している。
【4つの大統領令の連携サイクル】
[EO 14302: 産業基盤・燃料確保] ウラン濃縮・国内リサイクルを加速
↓(ウラン・HALEU燃料の供給)
[EO 14301: DOE試験炉改革] 【今回の対象】連邦地で「1年以内」の超高速臨界実証
↓(実証データ・運用の知見を蓄積)
[EO 14300: NRC規制改革] 実証データを活用し、商業ライセンス審査を「数年」から「数ヶ月」へ
↓(商業展開への道が開通)
[EO 14299: 国家安全保障導入] 軍事基地やAIデータセンター等の国家拠点で政府が最初の顧客として購入
相互影響①:「EO 14300(NRC改革)」との連携(最大のブレイクスルー)
- 課題だった「DOE後の壁」の解消:
いくら「EO 14301」によってDOEの管轄下で素早く実証炉(プロトタイプ)を動かせても、それを一般市場で商業展開(AIデータセンターや工場への売電など)するには、最終的にNRC(原子力規制委員会)のライセンスが不可欠というジレンマがあった。 - 解決策「Launch Pad(ローンチパッド)」構想:
「EO 14300(NRC改革)」は、NRCに対し構造、人員、安全審査プロセスを抜本的に効率化するよう命じた。これにより、「DOEでの実証試験で得られた生の安全性・運転データ」をそのままNRCの審査に直結させ、審査を極限までショートカットする「Launch Pad」と呼ばれる架け橋が機能し始めている。 - 実際の成果:
この改革の風を受け、TerraPower社(Natrium炉)やKairos Power社(Hermes炉)などの民間商業ライセンス手続きが、これまでにない前例のないスピードで承認・進行する好影響が出てる。
相互影響②:「EO 14302(国内産業基盤の再活性化)」による燃料供給
- 先進炉の多くは「HALEU(高 assay 低濃縮ウラン)」という特殊な高濃度燃料を必要とするが、これまではロシアからの輸入に依存していた。
- EO 14302がDOEに対して課した「国内ウラン濃縮および燃料リサイクルの国家方針(2026年1月報告)」 と、DOEの「燃料ライン・パイロットプログラム」 が連動したことで、OkloやRadiantといった企業が試験炉を動かすための「燃料が手に入らない」というリスクが国策によって排除された。
相互影響③:「EO 14299(国家安全保障のための先進炉配備)」による市場形成
- この大統領令は、戦争省(DOW)に対し、国内の軍事基地や重要インフラに先進マイクロ炉を配備する計画を命じている。
パイロットプログラム(EO 14301)で早期に臨界を達成したRadiant社やAntares Nuclear社などのマイクロ炉は、そのまま戦争省の調達(最初の顧客としての政府買い取り)の直通ルートに乗る仕組みになっている。
日本への影響と対応
この米国の政策転換は、日本の原子力政策および産業界に、機会と脅威の両面でインパクトを与えると考えられる。
- 産業界への「巨大なビジネスチャンス」と「サプライチェーン再編」
- プラスの影響: 日本の重電メーカー(三菱重工、日立、東芝など)や素材メーカーは、米国のサプライチェーン強化において不可欠なパートナーとなり得る。特 に米国が製造能力を喪失している大型鋳鍛造品や特定のコンポーネントにおいて、日本企業への需要が急増する可能性がある。
- 共同開発の加速: 次世代炉(SMR、高温ガス炉など)の開発において、米国市場が巨大な実験場となる。日米連携プロジェクト(例:テラパワーやニュースケールなどへの参画)が加速するであろう。
- 規制基準が「ダブルスタンダード」にならないようにすべき
- LNTモデルの見直し: 米国ALARA(微量放射線でも有害とする考え方)を放棄し、緩和された新基準を採用した場合、日本の規制基準(厳格なゼロリスク志向)についても微量放射線に対する考え方を見直すべきではないか。
- 影響: 「米国では安全とされる基準が、日本では違う」という状況が発生した場合、日本国内での原子力再稼働論議や世論形成に複雑な影響を与える可能性がある。従って日本でもALARAを放棄し微量放射線に対する規制を考え直す必要がでる。
- 「AI×原子力」競争における遅れ
- 競争力の格差: 米国がAIデータセンターに原子力を直結させ、安価で安定した電力を供給し始めれば、電力コストが高騰している日本はAI産業の競争力で決定的な遅れをとるリスクがある。
- 対応: 日本もデータセンター立地と電源構成をセットで考える国家戦略が必要になるが、世論の反発が予想され、政治的な決断力が試される。
- 人材と投資の流出(Brain Drain / Capital Flight)
- 研究開発の地殻変動: 米国が2年以内に試験炉を稼働させるスピード感で動く一方、日本での許認可に10年以上かかる状況が続けば、日本の優秀な原子力技術者やスタートアップ、投資資金が、規制の緩い米国へ流出する可能性がある。
- 地政学的連携の強化
対中・対露包囲網: 米国は原子力輸出を安全保障戦略と位置づけている。日本は、第三国への原発輸出において、米国と足並みを揃え、中国・ロシア勢に対抗する役割を強く求められることになる。
6. まとめ
トランプ政権によるこれら4つの大統領令は、原子力を「気候変動対策」の文脈から「国家生存のための戦略兵器」の文脈へと書き換えた。
安定電力確保のための軽水炉を2030年までに10基の新規着工、2050年までに400GW という目標は、平時の産業政策としては非現実的にも見えるが、これは「戦時」を想定した緊急性を帯びた内容となっている。
日本にとって、先進炉の開発については、日本の技術力を生かす絶好の機会であると同時に、自国のエネルギー政策の硬直性を突きつけられる試練でもある。米国が猛スピードで規制を緩和し、AIと原子力を推進させる中で、日本が従来のペースを維持すれば、産業競争力とエネルギー安全保障の両面で同盟国でありながら決定的な従属的地位に置かれる可能性がある問題である。
この間の米国の改革の進め方の中に日本の学ぶべき点がある。 一つは、エネルギー政策のような国の基本となる政策には、民主党・共和党の両党が同じ方向を向いているという点である。日本では、政治的駆け引きの中で野党は与党に反対するという単に党利党略の観点での動きしか見えない。これでは国を亡ぼすことに繋がる。
二つ目は、エネルギー確保のためには原子力発電が必須だという認識である。原子力発電が如何に国の命運を左右するかについては論を待たないと思うが国のあやふやな態度が民意を不要論へと誘導している。直近では原子力活用にかじを切りつつあるが、そのために必要な人材・技術など目配りが足りていない。一方でさらに開発に時間を必要とするであろう核融合については首相が旗を振っている。国の首相としては、技術的水準と開発にかかる時間等をよく見定め原子力を優先的に進めるという決断が求められる。
三点目は、国のトップが米国のように、総合的原子力立国政策を立案し主導すべき点である。トップが継続的に力強く取り組む姿勢を示さなければ誰もついてこないのではないだろうか。
これまでのわが国の牛歩のような動きではなく、政治主導で原子力改革を進めていくことがまさに求められ、これを実行していく以外に日本を沈没から救う道はない。
(金盛正至 記)